AGU RESEARCH

未来を創るトピックス
ー 研究成果に迫る ー

青山学院大学の教員は、
妥協を許さない研究者であり、
豊かな社会を目指し、
常に最先端の研究を行っています。
未来を創る本学教員の研究成果を紐解きます。

  • 理工学研究科 理工学専攻 電気電子工学コース 博士後期課程3年(受賞時)
  • 掲載日 2025/07/30
  • 1つの形で表されない非線形システムを追究し、未来の自動化システムへの貢献を目指す
  • 浅井 佑仁 さん
  • 理工学研究科 理工学専攻 電気電子工学コース 博士後期課程3年(受賞時)
  • 掲載日 2025/07/30
  • 1つの形で表されない非線形システムを追究し、未来の自動化システムへの貢献を目指す
  • 浅井 佑仁 さん

TOPIC

優れた発表を行った若手研究者に送られる”IEEE CIS Young Researcher Award”を博士後期課程1年次で受賞

受賞のポイント

非線形システムを的確に表現できるファジィシステムを介して、実際のシステムでは観測が困難な状態変数の導関数を用いずに、システムの安定性を保証できる出力フィードバック制御器を設計した点や、制御性能や動作品質、エネルギー消費などの指標を定量的に評価できる枠組みを導入した点。さらにその評価指標を最小化するためのアルゴリズムを作成できた点などが評価され、米国電気電子学会(IEEE)の技術分科会である”Computational Intelligence Society(CIS)”の日本支部が35歳以下の若手研究者に送る”Young Researcher Award”を受賞しました。

出力フィードバック制御とは

システムの状態の一部またはすべてがセンサーで測定できない状況下でも、システムを制御するための制御理論や制御手法のことを指します。システムを制御するために必要なすべての情報が得られなくても、得られる情報のみをもとにシステムの状態を巧みに推定し、正確に動作させることを実現する仕組みです。

イラスト:矢印

トピックを卒業生とともに紐解く

浅井 佑仁 さん

青山学院大学理工学部電気電子工学科卒業。理工学研究科在籍中に、2023年度学業成績優秀者(最優秀賞)受賞、2024年度学生表彰受賞。2025年、同研究科理工学専攻電気電子工学コース 博士後期課程修了(工学博士)。博士修了後、同大学理工学部電気電子工学科で助手を務める。
学会で発表した論文に関して、35歳以下の若手研究者の中で優れた研究に送られる”Young Researcher Award”を博士後期課程1年次に受賞。先達の少ない、非線形システムに対する出力フィードバック制御器の研究に積極的に挑戦を続けている。

入出力関係が比例しない「非線形システム」の効率的な制御を追究

センサーによる状態観測が出来ない部分を、出力値から推定して制御するシステム理論を開発

基礎領域で研鑽を重ねて、国際的な活躍が出来る研究者を目指す

普段はどのような研究を行っているのでしょうか?

私が取り組んでいるのは「非線形システムの制御理論」に関する研究です。内容としては非常に数学的かつ専門的なため、友人から「どんな研究をしているの?」と聞かれたら、将来的に飛行機や自動車、エアコンやドローン、工場の機械といった身近な機器の自動運転に応用できる技術だと説明しています。日常生活の中で活用されるシステムの安定性や効率を支える技術につながる研究です。
私の研究では、具体的に上記のような機械を直接扱っているわけではなく、理論的な基礎研究に焦点を当てています。実際に機械を運用する際には、すべての状態が観測できるとは限りません。たとえば、料理する際の油や部屋、ごみの焼却炉、冷蔵庫や炊飯器の温度の制御では、部分的ではなく、すべての場所の温度が重要となってきますし、航空機の制御では、重心位置や対気速度または地上速度などが重要になってきます。他にも位置や速度、加速度、姿勢角、角加速度など無数に制御に必要な要素がありますが、観測しきれない要素が多く存在します。

私の研究では、そのような“観測できない状態”を、出力として得られる限られた情報から精緻に推定し、より適切な制御を実現するための「出力フィードバック制御」に理論的に取り組んでいます。制御の分野では、すべての状態が観測可能であるという前提で制御を行う「状態フィードバック制御」が一般的ですが、実際の現場ではその前提が成り立たないことが多くあります。そうした現実に即した複雑な制御課題に対して、理論的な面からアプローチするのが私の研究のテーマであり、非常に難易度の高い分野だと感じています。

数学的で難解な領域なのですね。

何か“目に見えるもの”を作っていれば、それをお見せすることで研究内容をイメージしてもらいやすいのですが、私たちの研究では具体的に見せられる「モノ」がないため、内容を理解していただくのが難しいと感じることがあります。例えば、共同で研究を行っている米山研究室ではパラシュートのような形状をしたドローンの研究を行っています。パラシュートの部分は、ふわふわしていますので、そこにセンサーなどを設置すると、その部分だけが重くなってしまい、通常通りの飛行が出来なくなってしまいます。また、小型のドローンなども同様で、大きなセンサーをつけたら飛ばなくなってしまいます。そのため、自動制御に行いたくても、飛行中のデータをリアルタイムで得ることが出来ません。このように、物理的・費用的にセンサーを取り付けられない場合など観測できない状態を得られる出力結果のみから推定することで、制御システムへとフィードバックしていこうというのが、「出力フィードバック制御」の研究です。分かりやすくお伝えしたいのですが、どうやって説明すればよいのかは一生の課題ですね(笑)。

研究活動で困難を感じる部分はどのようなところですか?

これは私個人の課題というより、この研究分野全体に共通する難しさかもしれませんが、研究を進める上でまず直面したのが「先行研究の理解が決して容易ではない」という点でした。これまでにも、研究を始める以前に、すでに発表されている論文の理論を正しく理解し、再現することの難しさに何度も直面してきました。特にこの分野は、数学的で理論中心の内容が多く、論文を読み進めるだけでも相当な時間と集中力を要します。読み終えたときには、頭の中のエネルギーを使い果たしているような感覚になることもしばしばあります。また、理論的な性質が強いため、複数人で手分けして進めるというよりは、一人でじっくりと考え抜く作業が中心になります。そのため、わからないことがあってもすぐに人に相談できるわけではなく、自分の力で粘り強く向き合い続けなければならないという点も、この研究に取り組む中で感じている大きな壁のひとつです。

研究テーマにある「非線形システム」とはどういうものなのでしょうか?

私が取り組んでいる対象のシステムは「非線形システム」と呼ばれるものです。車の制御を例にすると、システムというのは、例えばアクセルを踏み込む(入力)と車が走る(出力)といったように、入力と出力があるモノすべてを指します。入力の数値に対して出力の数値が比例したモノは「線形」システムと呼ばれ、これは比較的制御しやすいシステムになります。一方で世の中のほとんど、99%のシステムは「非線形」です。非線形とは、入力に対して出力が単純に比例しない、つまり、その都度ばらつきが生じることを指します。例えば、1[V]の入力をしたら時速1[km]の速度が出るとしても、2[V]にしたら速度が単純に2倍(時速2km)になるわけではないといった具合です。先ほど入力と出力の例に挙げた車の動きも、踏んだらすぐに加速するわけではなく、ある程度踏み込んでから一気に加速するような現象なので、これも「非線形」ということになります。
この予測しにくい特性のおかげで非線形システムの制御は非常に難しく、現在は「高木・菅野ファジィモデル」と呼ばれる数理モデルを用いてシステムを表現し、場合によっては線形システムの手法を応用して制御器を設計することが可能です。しかし、それでも現在は完全に非線形システムを制御することは困難で、私はより汎用的な制御を実現するために、なかなか研究が進んでいない、システムの出力情報から状態を推測する「出力フィードバック制御」にトライして、より効率的で正確な非線形システム制御を実現したいと思っています。

「非線形システム」を制御することは非常に難易度が高いのですね。

今、さまざまなものがすでに自動で動いているように見えますが、実際には「完全な自動制御」というのはそこまで確立していません。例えば車のアクセル操作は、人間が感覚的に力加減を調整しています。飛行機も、安定した稼働に落ち着けば自動化されていても、離着陸段階のような不安定な部分は人間による操作が必要です。現在の自動化は安定した場面に限られており、すべての工程が自動化されているわけではありません。
完全な自動化の実現に向けては、もう一つ大きな課題があります。それは、非線形システムを制御するために膨大な計算が必要となり、コンピューターの処理速度が追いつかないという点です。制御に必要な計算をいくら正確に行っても、処理に時間がかかれば、その時点で得られるのは「すでに過去の結果」であり、リアルタイムでの制御には使えなくなってしまいます。

これらの問題を解決するには、もちろんハードウェアの進化も一つの手段ですが、私が注目しているのは、現在開発している制御器の改良を行うことによって計算コストを下げ、より少ないエネルギーで効率的に制御できる方法を追究することです。そうしたアプローチを通じて、より持続可能で信頼性の高い自動制御の実現に貢献したいと考えています。

これまでの歩みで、大学院で研究を続けようと思われたのはなぜですか?

学部卒で就職せずに修士課程へ進学したのは、まず大学で得た知識をこのままで終わらせてしまうのはもったいないなと感じたからです。周囲の友人もほとんど大学院進学への進学を選んでいたこともあり、就職活動を行わず大学院進学一本で進路を考えていました。もともと航空機やヘリコプターに興味があり、ヘリコプターに関連する研究ができるからという理由で米山研究室を選びました。大学院に進めばその分野に関する専門性をさらに深められ、希望する業界への就職にもつながるのではないかと考えたからです。また、米山研究室とつながりのあるフランスの大学への留学も視野に入れていました。実際に現地の先生から受け入れ許可もいただいていたのですが、残念ながらコロナ禍の影響で渡航は叶いませんでした。

博士課程へ進学を決めた理由も教えてください。

修士課程の2年間は、ちょうどコロナ禍の真っ只中で、研究活動のすべてがオンラインでした。同期の仲間と直接顔を合わせる機会すらほとんどなく、希望していた業界でもその時期は採用活動がほとんど停止していました。先が見えず不安もありましたが「それならば研究活動をもっと深めて、国際的に活躍できる人材になろう」と決意をして、博士課程への進学を決断しました。応援してくれている両親に対してもちゃんと結果を示したいといった気持ちもありました。そのため、博士課程では誰にも負けないだけ研究に励んで、国際的に活躍できる人材になろうと、修士課程に進む時よりもずっと強く自分を奮い立たせて進学を決断したのをおぼえています。平日・休日関係なく毎日研究室に通い、米山先生をはじめ、他の先生方、助手の方からの指導を糧にしながら、懸命に先行事例を学び、自分なりの理論を思考・構築し、論文を書きという作業をひたすら繰り返すことで、こうして学内外で賞もいただくことができて、非常に充実した時間を過ごせたと感じています。

将来に向けてどんな目標をお持ちですか?

研究を進める中で、常に新しい課題に直面し、理解が深まるたびに、また新たな難しさに気付かされます。特に、誰も手をつけていない難しい領域に挑戦することにやりがいを感じています。まだ研究者として駆け出しの段階ですので、まずは過去の論文を丁寧に読み込み、使える手法を試行錯誤し、数学的な壁にぶつかることを恐れずに、数学的な理論の研究に没頭して自分らしさを極めながら少しずつ前進していきたいと思います。ただ、ずっと理論的なことばかりに集中していては、本来の目的である「研究成果を社会に役立てる」という視点を見失ってしまうかもしれません。将来的には、准教授や教授といった立場で研究できることを目指しつつ、社会が求めるものを見極めながら、企業や学術団体などと連携して新たなものづくりに貢献できるようになりたいと考えています。
私の研究が、将来的に航空機や自動車、あるいは人々の暮らしを支える自動化システムに応用され、人間がより快適に生活できる未来を支える一端となれたら、とても嬉しく思います。

関連コンテンツ

関連アイテムはまだありません。

「研究・産官学連携」に関するお問い合わせはこちら

「未来を創るトピックス」の一覧に戻る